それで、今日はどういうことで会いに来てくれたのかな?
英人くんとは、会社の同期なんです。
日々、漫然と過ごしている僕に比べて、英人くんは毎日楽しそうに仕事をしているように見えたんです。
それに、仕事以外のことも充実しているみたいなので、どうしてなのかな? と思って聞いてみたんです。
そしたら、本村さんのことを教えてくれて、会ってみないか? と誘ってくれたんです。
なるほど。
ということは、Aくんは、今よりも楽しく仕事に取り組めるようになって、仕事以外も充実した毎日を過ごせるようになりたいと思っているんだね?
はい。そうです。
そしたら、まずは仕事のことから話していこうか。
Aくんは、今のお仕事は好き?
あまり好きではありません。
そうなんだ。
じゃ、毎日仕事をしているのはなぜ?
え〜と、あまり考えたことないです。
仕事だから? え〜、給料をもらうためですかね。
ということは、給料がもらえなくなると困るから仕事をしているということ?
そういうことです。
じゃ、少し話を変えるね。
Aくんの趣味は何? お休みの日にはどんなことをしてるの?
趣味ってワケではないですけど、休みの日にはゲームをしていることが多いです。
ゲームは楽しい?
楽しいですね。
ゲームすると給料もらえるの?
もらえるワケないじゃないですか!
そうだよね。もらえるワケないよね。
でも、給料もらえるワケでもないのに、どうしてやるの?
それは、楽しいからですよ。
なるほどね。
では、話を整理してみようか。
Aくんは、給料をもらうために仕事をしている。
そして、給料がもらえるワケではないのにゲームをしている。
この違いはなんだと思う?
楽しいか、楽しくないか。
好きか、好きじゃないか、ということですか?
そう! そういうこと。
人間の脳みそが、これをしようとか、これはやめておこう、と決めるのには、2つの基準があるんだよ。
1つは、「痛み」を避けるため。
もう1つは、「快楽」を得るため。
「痛み」というのは、身体で感じる痛みだけではなくて、退屈、悲しい、寂しいなどのネガティブな感情も含めたこと。
「快楽」というのは、身体で感じることだけではなくて、楽しい、嬉しい、美味しいなどのポジティブな感情も含めたことを言っているのね。
ここまでは大丈夫かな?
はい。なんとなく分かります。
では、具体的に、さっきのAくんのことを当てはめてみるよ。
Aくんは仕事が好きではないから、Aくんにとって仕事をすることは「痛み」なのね。
だから、「痛み」を避けるために、仕事はしたくない。
でも、仕事をしないと給料がもらえない。
Aくんにとって、給料がもらえないのは「痛み」なの。
しかも、仕事をすることの「痛み」よりも、強い「痛み」なの。
だから、より強い「痛み」を避けるため、つまり、給料がもらえないのを避けるために、より弱い「痛み」を我慢するの。
仕事をするのはイヤだけど、給料がもらえないのはもっとイヤだから、我慢して仕事をするの。
一方、Aくんはゲームが好きだから、Aくんにとってゲームをすることは「快楽」なのね。
だから、「快楽」を得るために、ゲームをしたい。
そして、ゲームをしても給料はもらえない。
給料をもらえないのは「痛み」だけど、ゲームをすることの「快楽」の方が強いから、より強い「快楽」を得るために、ゲームをするの。
給料はもらえないけれど、ゲームが好きだから、ゲームをやるの。
分かってきたかな?
はい。さっきよりかは分かってきました。
では、英人くんのように、仕事が楽しくなるにはどうなったら良いと思う?
仕事を好きになれば良いってことですか?
そうだよね。
仕事を好きになったら、給料がもらえようが、もらえまいが、楽しくできるよね。
そして、仕事をすれば、給料はもらえるから、ダブルで嬉しいよね。
でも、仕事を好きになれば良いと言われても...
そりゃそうだ。
好きになれてたら、僕のところに会いには来てないよね。
でも、仕事を好きになれる方法もあるにはあるんだよ。
それに、仕事を好きになる以外の方法もあるから安心して。
では、まず仕事を好きになれる方法から話すね。
仕事って一口に言っても、いろんなことをやっているよね。
いろんなことをやっている中から、この部分は好きだな、と思えることを探してみるというのは一つの方法だよ。
どうして、これが良いのかは、説明するより、実際にやってみると分かるよ。
まずは、自分がどんな仕事をしているのかを分解、分類するところから始めてごらん。
その次に、分解、分類したそれぞれについて、どこが好きかな? と考えてみて。
これは、宿題として、自分でやってみて。
分かりました。
やってみます。
それと、例えば、定型になっている仕事や単純作業などは、ゲーム感覚にしてみるというのもあるよ。
定型になっている仕事なら、ミスなく仕事を終わらせるタイムを日々更新できるように工夫するとか。
単純作業なら、作業を10回こなすタイムトライアルをするとか。
ゲームで感じる、今まで倒せなかった敵キャラを倒したときの優越感や記録を更新したときの達成感を仕事の中でも感じられるようにするの。
面白そうでしょ。
どんな仕事や作業をゲーム感覚にできるか考えてみて。
はい。
今のことだけでは、いまいちということもあると思うので、仕事を好きになる以外の方法についても話すね。
さっきの話で、あまり好きではない仕事をするのは、給料をもらうためってことが分かったよね。
Aくんにとっては、給料をもらうことは「快楽」だと言えるよね。
給料がもらえる「快楽」の強さが、仕事をする「痛み」の強さに優っているから仕事をするんだったよね。
」「
もしくは、「給料がもらえない」ことが「痛み」。
仕事をする「痛み」と比べると、仕事をする「痛み」の方が小さいから我慢して仕事をしている。
」「
実は、仕事の中の好きな部分を探すことやゲーム感覚にするというのは、仕事をする「痛み」を弱めることになるんだ。
なるほど。
では、一方の「快楽」をより強くすることを考えてみよう。
給料がもらえる「快楽」を強くするには、給料が増えないといけない。
でも、給料は自分の思い通りに増やすことはできない。
だから、仕事をすることで得られる「快楽」を給料以外にも見つけるんだ。
つまりは、何のために仕事をしているのか? という目的を増やすんだ。
はぁ。
例えば、将来アメリカで暮らしたい。
そのために、仕事の中で、英語を身につけよう、とか。
将来、独立起業するために、仕事のなかで、お金の流れを勉強しよう、とか。
将来の提携先や顧客候補を見つけよう、とか。
今の目先の仕事のことだけを考えるのではなく、自分自信の将来を見据えて、そのためのスキルや知識、人脈を得るためなど、少し長い時間軸で捉えて考えてみる。
仕事をやる目的、理由、価値が大きく感じられれば感じられるほど、はっきりすればするほど、仕事をすることの「快楽」が強くなっていくということなんだよね。
英人くんが仕事に楽しく取り組めるようになったのは、これができたからなんだよね。
仕事をすれば、あれも手に入るし、これもできるようになるし、あれも、これも、ってなったら、楽しくなると思わない?
Aくんがそんな状態になれる将来像ってどんなものなんだろうね?
Aくんは将来どんな風になりたい?
今まで、嫌いではないけど、あまり好きではない仕事をするために、仕事以外の時間は気を紛らわしたり、憂さ晴らししたりするために費やしていたので、将来のことなんて考えたことないです。
じゃ、いい機会だ。
手助けしてあげるから考えてみよう。
<本村は、Aくんにあれこれ質問して、Aくんが将来像を描けるように導いた>
こんなもんかい?
もっといろいろ、やりたいこととか欲しいものとか、あるんじゃない?
これが全部実現したら、Aくんの人生は最高だったって言えるかな?
これを全部実現するためだったら、どんなことでもがんばれちゃう?
いや〜、でもこのくらいしか出てこないですよ。
そっか。
でも、大丈夫!
いろいろ出てこないのはAくんが悪いワケではないんだよ。
どういうことかって言うと、夢とか目標とかって、知識の延長線上にしか描けないんだよ。
知らないことは、夢や目標にはできないってこと。
例えば、Aくんがスポーツ好きだったとしよう。
外国のある村だけで、めちゃくちゃ流行っているスポーツがあったとする。
でも、そのスポーツのことは、その村の人しか知らないとする。
Aくんは、そのスポーツをやってみたいと思う?
いや、思わないですね。
見たことも、聞いたこともないですから。
そうだよね。
見たことや聞いたことがあって始めて、やってみたいとか、興味が無いとかって思うんだよね。
さっき描いた将来像も同じようなことで、この世の中に、どんな遊びがあって、どんなモノがあって、という知識、情報がなければ描けないよね。
そうですよね。
知識や情報がない理由の一つは、Aくんがまだ若くて世の中のことに触れていないからということ。
それに、生まれたときからずっと不景気の世の中で育っているから、多くを望まないクセがついてしまっているというのもあるんだよね。
そんなクセがついちゃっているんですかね。
クセだから、自分では気づかないもんだよ。
あと、僕も責任を感じるんだけど、つまらない大人が多すぎるってこともあるね。
大人がガンガン遊んでいたり、夢を叶えていたりと、お手本を見せられていたら、それを見て若い人や子どもたちは、早く大人になりたいって思うよね。
大人になったら、あれやりたい、これやりたい、って思うよね。
たしかにそうですね。
だから、Aくんが悪いというワケではないので安心して。
これから、いろんなモノを見たり、聞いたり、体験したりして、これはもっとやりたい、極めたい、あれはもういいやって、選別していったらいいんだよ。
さっき、つまらない大人が多すぎるって言ったけど、数は少ないけれど、ぶっ飛んだ面白い大人も世の中にはいるんだよ。
そういう大人のことを知ることで、Aくんの将来像ももっとイメージが広がって、具体的になると思うよ。
でも、そんなぶっ飛んだ面白い大人なんて見たことないですよ。
そりゃそうだね。
Aくんの周りにはAくんのような人が集まっていて、ぶっ飛んだ面白い大人はそういう人たちで集まっているから、見ることはないよね。
じゃ、どうしたらいいんですか?
Aくんが望むなら、そういう大人がいるところに連れて行ってあげることもできるよ。
それで、憧れの大人を見つけられたら、その人ようになりたい、その人がやっていることをやってみたい、と思うようになって、なんかがんばれそうな気がするでしょ。
そうですね。
そしたら、そうなるためにはどうしたら良いかを学べば良いんだ。
仕事の中にも必要な学びがあるはずだから、その学びを得るために仕事に打ち込めばいいんだよ。
そうなれば、仕事をすることの価値が高まるよね?
そうですね。
最初の一歩としてすぐにできることは、自分の知らないことを知ろうとすること。
要するに、好奇心を旺盛にすることだね。
はい。
今までの自分だったら、選ばないモノ、ことを選んでみるとか、友達からの誘いにはとりあえず乗ってみるとか。
意識しないと、今までと同じ選択をしてしまうから、すでに知っているものとしか触れられないよね。
たしかに。
食わず嫌いをやめて、まずは一口食べてみる。
まずかったら吐き出せばいい。
美味しかったらおかわりすればいい。
あ〜、今まで「興味がない」とか「めんどくさい」とか言って、友達からの誘いを断ってました。
それなのに、心の中では、「なんか面白いことないかな〜」って。
矛盾してますね。
ははは。
今、気がつけて良かったね。
好奇心を持って、知識や情報を増やしていって、その中から夢や目標を詳細にして行ったらいいと思うよ。
手助けが必要なら、またいつでも言ってね。
はい。
そうそう、仕事以外の生活を充実させるって話は、もう答えが出てるよね。
新しい知識や情報を仕入れるため、自分の理想の将来像を描くために必要なことをしたらいいんだよ。
そして、理想の将来像が描けたら、今度はそれを実現するために必要なことをしたらいい。
もう大丈夫だよね。
はい。
ありがとうございました。
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